一羽、そしてまた一羽

あひる日和

2011年11月12日 21:18

 ギブアップぎみだ。見えない敵との戦いは、ほぼ敗北。地面の穴を次々塞いでも、サウンド オブ サイレンス、、、何やら迫りくる危険に怯えるのはもう疲れた。
 アヒルたちに告げる。
「お前たち、雛が可愛いのなら自分たちで守りなさいよ、ネズミだろうが、マングースだろうが、たとえハブであろうが、いい、闘うのよ」
お手上げの私はガックリ肩を落とし、この頃、小屋のセメント流しもほったらかし。こんなに頑張っても、地面だけでなく天井からもやってくるし、、、とにかく息長く闘うのだ。この頃、体力、気力、燃え尽きそうだ。、して
 今朝も、何もせず、ただアヒルたちが食欲を満たしているのをただ眺めていた。毎朝のようにあるお父さん。
「あれ、雛がたった一羽だよ、お父さん」
子どもの叫び声への返事は、私への慰めの言葉となる。
「この間の地震で、ドブネズミもモグラも穴から這い出してきたんじゃないですかねぇ」
「ホント、きっと、天も地面も大変なのかも」と、答える私は少々投げやりぎみ。そこに、隣の爺さんがやってきた。
「マングース、さぁ、絶対!うちの畑では、昨日、ボクシングして遊んでいたから、ワジワジして、追いかけたら、こっちを振り返って、鬼さんこちら、していたさぁ、でぇじ、敵わんさぁ」
「天敵がいないからやりたい放題だそうですね」と、さっきのお父さん。
「でぇじさぁ、野良猫も逃げ出すよ、あったぁ、子猫もパクリさぁ」
 ひぇ、だ。野生の世界は凄いねぇ。とにかく、次々、生まれたばかりの雛が犠牲になっているところに、私が侵入し、卵まで盗むと、あのメスたち可哀そうなので、しばらく餌だけ与えて甘やかすことにした。我が家の猫と一緒だ。リスクに弱くなるのだろうが、まぁ、仕方ない。
 入口に、「ハブに注意!」と、書いてあるので、いつも顔を見せる彼女、あの人形を抱いている金城さんはまったく近づかない。
「お兄さんはさ、ハブに咬まれて死んだんだよ、とっても小さい頃のことだけど、はっきり覚えているよ、私とお姉さんはちゃんと玄関から家に入るだけど、あの時、お兄さん、石垣をよじ登って入ろうとして、内股を何かに咬まれたわけ、オバアは、病院に連れていけばいいのに、タバコの煙をプウ、プウ、フゥ、フゥして、消毒したわけさぁ、でも、お兄さん足、どんどん、腫れて、お母さんが慌てて病院に連れていったけど、手遅れになったさぁ、だから、私、ハブ、って、聞いただけで、もう、だめ!」

その彼女が、急に姿を現した。
「あのさ、さっきから、アパートの窓から見ていたけど、それ、あっちにぶら下がって、変、だから」と声をかけてきた。
「え?」、指摘された箇所を見ると、ベルトに下げている、植木挟みのホルダーが、重みでズレ、ちょうど、お腹の下部、局所に当たる場所でブラブラしている。「え???どうして?考え過ぎ、そんなの、気にならないよぉ」と私。でも、ちょうど、カラス瓜の赤い実で、クリスマスリースを作っていたので、一つプレゼントした。
「それ、どこに生えていたの?」「うん、あっち、ゴヤーの株の取り残しだと思っていたら、その綺麗な赤い実がフェンスたくさん絡まっていたから、今、取ったばかり」と、彼女に渡してあげると、「その、赤い実、ハブが好きってよぉ」と、恐る恐る受け取る。「大丈夫、カラスも食べない、カラス瓜、ハブは見向きもしないよ、肉食だし、、、」
「うん、うん」と彼女は頷き、そしていつものように、ヒーロー人形を抱いてアパートの階段を上っていった。途中の踊り場の手すりの上にあるビールの空き缶を指さし、「はぁもぉ、誰ねぇ、こんなところに、ねぇ、ダメよぇ」と、私を振り返る。そのくせ、片づけずそのまま消えた。

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